【読書】制作者とオタクは理想を見る『庭の話』

最近、制作するにあたっての心境の変化があった。

このスタジオでの、地域材を活用した制作の環境活動という側面。山の中に住んでるんだから使って当たり前でしょ～と思っていたし、当初モノづくりするにあたって場所に付随したストーリーくらいに捉えていた。（すみません）

しかし、制作活動の中で『環境に対する姿勢』がマストなものにまで大きくなった。

30歳が近づいたから、結婚して環境が変わったから、というのもあるけど―――

きっかけのひとつかもしれないのが、2025年参院選のＳＮＳ動向。

根拠の無いヘイトで、目立ったもの勝ちの状態。こんなのデマを吐いた方がお得じゃん。そう思っちゃうよね。環境の話してる人いないの？みんなつられて外国人が～といっている。

恥ずかしい！！主張の前に倫理と道徳。他に方法があるよね、と思うコトばかり。

無数にあるＳＮＳのアカウント。炎上に絡む、ウチワで火を煽ぐアカウントの向こうに、無数のお兄さんお姉さんがいることを想像すると...若い世代に本当に恥ずかしい思い。

次の世代に、恥ずかしくない活動をしよう。自分も責任をもって。そう思ったのでした。

オタクでよかったかも

『庭の話』宇野常寛　講談社

そんな中で見つけた本著。

『庭』『制作』というキーワード。浅はかだが、どっちも大好き！と思い購入。

”モノを消費するという行為よりもＳＮＳというプラットフォームで行う交流が、より自己承認のための力を持った『情報社会』では、情報の拡散の速さで得られるインスタントな承認に、使用者は中毒になっており、その情報の正誤や倫理は重要でない。SNS内でのユーザーの役割は固定化し、多様性は失われていた。”

トランプ再選、ウクライナ侵攻でのＳＮＳが担った役割から始まる本著。

Ｑアノンなど格段に陰謀論に触れる機会が多くなった。そのときは海の向こうの話だと思っていたが、嘘を拡散することでコスパよく行われるプロパガンダは、より身近になっていることを実感した。

そんなプラットフォームに振り回される世界に対抗しうるのが――『庭』という環境、そこで行われる『制作』だ。

制作活動を肯定してほしい！と読み進めた本著、思いもよらない角度から共感が生まれる。

本の半ば、『暇と退屈の倫理学』の消費と浪費の議論を引用しながら、制作に至る進化と変身の話が進んでいく。その例で出てくるのが蒐集するオタク、消費するオタク、二次創作するオタクだ。

推し活という言葉も一般化したが、そこから深度が上がっていく二次創作するオタクの心理（制作を始めるひとつのきっかけ）のディテールには、私！？と思う人は多いのではないか。

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『SLAM DUNK』の三井と木暮の関係に恋愛を見出した女性は、自分の思い描いた理想を表現するために、ペンを執る。しかし、その女性は、もしも本編で三井と木暮が恋愛関係だったとしたら、ペンは執らなかっただろう。

…といった、何かに夢中になり、理想を見出し、表現する例を二次創作を例に紹介している。

自分もあるアニメの視聴後、最終的に離れ離れになる二人に『こんなお別れってないだろ…！！』と飽き足りない思いで同人誌を描いたことがある。オタクの深化、そこにコスパやタイパは存在せず、あるのは自分の理想と熱量。絵に限らず、そのような制作を契機に、自らの創作を始めるひとも多いだろう。

このような制作の例や、提唱される『庭』的な場所、構成要素が登場しながら本書は進んでいく。

そこで行われる制作、世界にモノを作り出すことが、世界に触れる実感として、SNSのインスタントな承認の対になるものとして紹介されている。

ちょっとオタクの話ばかりに触れたが、そこだけでなく、制作という行為のおこりやすい環境や企業の形態についても触れている。そこでは孤独や自立、個人を許容できる環境など課題（条件）が見えてくる。山村での暮らしのような、そもそも活動できる人間が限られる地域では、あたらしい繋がりづくりは急務だ。

当工房は半ばオープンだ。『庭』となる意識があれば、また活動が変わるかもしれない。

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確かに倫理を一瞬忘れれば、その間タイパの良い活動はできるかもしれないけど、それがいつまで続くんだろう？プラットフォーム社会の中では、ひとりひとりの優しさや配慮に訴えかける事は、もはやポエムの類のように映るかもしれない。けど、責任を持って、かつロマンチックにいきたい。

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